Eye Sight

道化、恋人、はたまた老人!仮面で見分けるコンメディア・デッラルテの魅力

photo of masquerade masks

仮面と言えばイタリア。毎年2月に行われるヴェニスのカーニヴァル(謝肉祭)は有名ですね。

街中に中世の衣装と仮面を付けた人々が繰り出し、飽食を楽しみます。

仮装の中にひときわ目立つダイアモンド柄の衣装を着た人を、人々は「アルレッキーノ」と呼びます。「道化」役者のことで、女性版は「コロンビーナ」。

どちらもイタリアの大道芝居「コメディア・デッラルテ(Commedia dell’arte)」に登場する狂言回しの役です。

この芝居の特徴は、役者が仮面を付けていること。その仮面によって、どんな役柄か見分けられるようになっています。イタリアの伝統ある大道芸、街の人々の目を楽しませたその魅力を徹底解説します。

イタリアの大衆演劇「コンメディア・デッラルテ」の歴史

今ではTV番組などもある、世界中で人気のある「コンメディア・デッラルテ」ですが、その歴史は古く、16世紀までさかのぼります。

「ストックキャラクター」と言われる、特定の役で即興劇を演じるのが特徴でした。

初期の「コンメディア・デッラルテ」の劇団は旅回りを主として活動しており、内容は社会風刺や時事ネタなど、芝居を打つ街の事情を組み入れています。

日本の狂言の元となった猿楽と同じで、旅した各地の話題を芝居にし、市民に伝える役割も担っていました。役者の中には街を移動することを利用して、貴族たちにスパイとして雇われる者もいたようです。

「コンメディア・デッラルテ」の特徴

イタリア語の「コンメディア(Commedia)」は、英語で「コメディ(Comedy)」。

そうです。「コンメディア・デッラルテ」の基本は喜劇です。当然、観客を楽しませるためには様々な手段が使われました。

誇張された演技、「ラッツィ」と呼ばれる役者自身の即興による独特の笑いのテクニック、更にパントマイムやジャグリング、アクロバットなどの身体表現や、スラップスティック(相方を打ち据えるための棒)と言う小道具も、全て観客を笑わせるために工夫され用いられました。

また、女性が演劇をすることがあり得なかった時代に、女優を舞台上に登場させたことも「コンメディア・デッラルテ」の功績です。

そういう意味では、男女問わず役者を仕事にした職業俳優集団の最も古い形態とも言えるでしょう。

また、「コンメディア・デッラルテ」は、発祥の地のイタリアのみならず、ヨーロッパ各地で幅広く発展していきました。

その結果、イギリスの劇作家シェイクスピアやフランスの劇作家モリエールなどに大きな影響を与えます。

特にモリエールは幼少期にみたイタリア役者の即興劇が彼の戯曲の源となったと言われています。

「コンメディア・デッラルテ」の影響は、その後オペラの諸作品にも影響を与え、レオンカヴァッロの『パリアッチ』、リヒャルト・シュトラウスの『ナクソス島のアリアドネ』、プッチーニの『トゥーランドット』等、作品の構成やシナリオに組み入れられました。

いまだ現代においても、「コンメディア・デッラルテ」の手法は継承され続けており、その方法論や俳優の訓練法を研究し、上演に活かそうとする動きもあります。

視覚で感じるドラマの主人公、仮面の役割

「ストックキャラクター」と言う、特定の役柄で即興劇を演じる「コンメディア・デッラルテ」では、その役柄をキャラクターの名前で呼びます。

例えば医者の役があるとすれば、「●●ドクター」と氏名を決めるのではなく、「ドットーレ(Dottore)」と言う、イタリア語で「医者」と言う名詞がそのまま役名になるのです。

そのため、それぞれが特徴のある仮装をします。

仮面がある役と無い役がありますが、その場合は衣装を見てわかるようになっています。ここでは主な役柄をご紹介しましょう。

●アルレッキーノ(Arlecchino)

軽業師、道化師です。身軽なペテン師ですが、根はお人よしの性格づけをされています。

フランスではアルルカン、イギリスではハーレクインとも呼ばれており、他の登場人物をスラップスティックでバンバン叩きながら、大騒ぎする演技が痛快です。

仮面のモチーフは猫。おなじみの赤・緑・青のダイアモンド柄の衣装は、道化の衣装の起源となっているほどです。

●コロンビーナ(Colombina

アルレッキーノの女房で、道化の女性版。

同じ衣装のチュチュを着ています。総じてアルレッキーノよりも頭の回転が速いしっかり者ですが、そのため常に騎士や老人に横恋慕されています。

しかし、ピンチを転機で乗り切る可愛い女道化師です。

●インナモラーティ (Innamorati)

恋をする若者達。恋人たちの役です。

二人で一つのくくりになり、男をインナモラート、女をインナモラータと言います。叶わぬ恋に邁進するこの二人は、仮面を付けずに、脚本の指定がない限りは、最新のファッションを着用するため、ある意味ファッションアイコンとなっていました。

また、歌や楽器演奏や詩の暗唱などが求められ、役者はそれらにある程度精通しておく教養も必要でした。

●パンタローネ (Pantalone)

金持ちで、欲深で、色欲旺盛な老商人。

男らしさと精力の象徴として大きな股袋(コドピース)を股間に付けているのが特徴です。

そのため、用いられる役柄としては、インナモラータの頑固な親や、イル・カピターノ(船長)やイル・ドットーレ(医者)の友人や商売仲間などが多く、特にパンタローネによる商売の計画が召使いザンニ(老人の召使)によって妨害されるのは、お決まりのパターンとなっています。

仮面の役割

costume wearing mask
Photo by Engin Akyurt on Pexels.com

仮面によって役柄のイメージを決める「コンメディア・デッラルテ」ですが、その仮面にはどんな役割があるのでしょうか。

例えば「パンタローネ(Pantalone)」は、鼻が長く曲がったような、誰が見ても嫌味を感じる仮面を付けます。

また「ジョッピーノ(Gioppino)」という役は、ベルガモ出身で、ぼこぼことコブで膨らんだ仮面を付けます。これは、当時のベルガモ地方は塩が不足しており、そのため甲状腺腫が出来る人が多かったためと言われています。

こんな風に仮面を付ける役には、その人柄や当時の土地柄などをキャラクターに刷り込まれているのです。

日本の仮面劇、「能」の能面との違いは?

日本の古典芸能「能」でも、「能面」という仮面を付けて舞う役があります。

しかし、半仮面(鼻までを覆う仮面)を付けてセリフを言いながら芝居をする「コンメディア・デッラルテ」とは違って、能面は役者の顔全体を覆い、その内側から感情を発していきます。

仮面をキャラクターを強調するために着けるのではなく、「能」の場合は「感情を隠す」ために付け、その内なる感情を静かに表現します。

同じ仮面を使っても片や「足す」、片や「引く」と、表現方法が大きく違うのは興味深いですね。

涙を笑いに変える「アルレッキーノ(道化)」

clown with green wig
Photo by Genaro Servín on Pexels.com

笑顔の仮面を付け、常に大きな声とスラップスティックを持って人を追いかけ叩きまくるアルレッキーノ。

同じ場面を何回も繰り返して、何度も相手をこけさせたり、泣かせたりと抱腹絶倒の芝居が繰り広げられますが、その笑い顔の下では涙を流すこともあるのでしょう。

良く、クラウンのお人形や仮面には目の下に涙が一滴描かれています。この魅力的なキャラクターは多くのお芝居やオペラになりました。

レオンカヴァッロ作曲オペラ「道化師」

代表的なオペラがレオンカヴァッロ作曲の、その名もオペラ「道化師」。

時代は近代ですが、村を巡業中の「コンメディア・デッラルテ」一座の座長が妻とその村の若者の浮気を目撃。

嫉妬に怒り狂った挙句、芝居中に妻と彼女を助けようとした愛人を殺してしまいます。

その彼が劇中、妻の裏切りに泣きながら歌うのが有名なアリア(主人公の感情を吐露する歌)「衣装をつけろ」です。

この曲は間もなく始まる芝居の準備のために道化の衣装に着替えながら「芝居をするか!逆上しているこの最中に、俺は何を言っているのか」と歌って、大きく笑うシーンから始まります

この悲哀は、人々を笑わせる役だからこそ、心に深く刻まれます。「アルレッキーノ」は人間の裏と表を知り尽くしています。だからこそ仮面が必要なのかもしれません。

「仮面」を変えれば世界が変わる。「コンメディア・デッラルテ」は視覚の展開

人が本心を隠す時、「仮面を被る」と言いますが、人間ならば誰しも二面性を持っているもの。

「コンメディア・デッラルテ」の仮面劇は、大笑いしながらも、思わずその仮面の表情が動いたかのように見える時があります。

動かないものがいつの間にか動いて見える時、きっとその役者の才能に視覚が展開されていき、観えていない表情や内側の気持ちまでも感じるようになるのでしょう。

心から泣いたり、お腹のそこから笑ったり、「コンメディア・デッラルテ」は魅力満載です。

rihokomuto
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。