Eye Sight

透けるから見えてくる。「紗」の魅力

「紗」と言う言葉から、何をイメージするでしょうか。

多くの方は着物かもしれません。あるいは「更紗」というインド布でしょうか。

その言葉の響き通り、サラサラとした薄い布である「紗」。実は洋服以外にも、その「透け」の効果で活躍しているのです。

【蘇る視覚芸術】現代アートで描く美人画の嗜み方:若者にも愛されるワケ

薄く透き通る布の秘密は「粗さ」

「紗」は「しゃ、うすぎぬ、さ」と読みます。

その読み方の通り、透き通るような薄さの絹織物です。

絡み織(からみおり)、または綟り織(もじりおり)と言う織り方で織られ、よった2本の太い糸を経糸(たていと)とするため、粗い目が特徴です。

目が粗いと言うことは、通気性が良いということ。

主には夏用の衣類などに使用されるため織られ始めました。また、色のある生地などと重ねると下地の色が見えるため、装束などにも使用されています。

「紗」の歴史は古く、漢の時代(紀元前)中国で誕生しました。

唐の時代から宋の時代(日本では平安時代から鎌倉時代)に大流行し、その後日本にも伝わります。

その素材からまずは貴族の夏用の衣装に用いられ、雅楽の装束にも使用されます。

日本でも平安時代頃、夏の衣料として大いに用いられ、その後天正年間に大陸から最新技術が再導入され、現在の形になったと言われています。

「紗」の種類

その生地の素材から、様々な用いられ方をする「紗」ですが、その用途とそれによって透け方を変えるため、名前がついています。その中から4つの種類をご紹介しましょう。

①顕文紗(けんもんしゃ)

紗の衣装の模様の部分だけを平織にして織り出したもの。そのため生地が厚くなっている模様の部分が紗の地から浮き上がって見えます。「狩衣(かりぎぬ)」と言う、10~19世紀頃の公家の男子が着用した和服などに使用されました。

②透文紗(すきもんしゃ)

顕文紗とは逆に、平織の衣装の模様の部分だけを紗で織り出したもの。こちらは模様部分だけ透けて見えるので下地によって模様の色が変わるという効果があり、夏の装束に使用されます

③穀紗(こめしゃ)

紗の衣装の模様の部分だけを穀織(経糸二本を一組にした平織。織った部分が粒を並べたように見えるため)で織り出したもの。穀紗は最初から「透け」ることが目的で織られた生地です。衣冠束帯のときに着る上着、袍(ほう)や狩衣の夏用に使用されました。

④金紗(きんしゃ)

竹べらで金箔を紗の織り目に差し込んだもので、紗の中でも高級品です。高価でもあるため、中世の高級武士が装束や鎧に好んで使いました。

夏の定番から歌舞伎の衣装まで。「紗」の着物

woman standing near plants
Photo by Satoshi Hirayama on Pexels.com

「紗」と言えば「着物」。特に夏の着物は、そのイメージが一番しっくりくるのではないでしょうか。

通常、夏の着物は「紗」と同様に「絽」と言う反物が使用されます。

こちらも紗と同じように粗い目で織られており、透け感がある反物ですが、基本的に少しフォーマルな着物に使用されるようです。

「紗」の方が透ける率が高いために、普段着に良く使われます。いずれにしても、下地の色や模様を淡く見せることを楽しむ着物です。

透け感が強いのは、清涼感が強く感じるということで、紗の着物は盛夏に着ること多いのも特徴です。

ただ、気を付けないと、思ったよりも透けていたということもありますので、外出前にはチェックをしましょう。とにかく透けることが前提で着るものなのです。

また、紗の着物には、やはり着物と同じ素材のものや、紗よりも更に透け感のある羅(ら)や、少しシャリシャリする上布などを使った、夏帯を合わせましょう。

男性の場合も、夏場は紗や絽の着物がおすすめですが、カジュアルに着ることが出来るということで、紗の羽織を一枚持っておくと夏場の和装に実用的で、非常に便利です。

「透け」の魅力とは

女流日本画家、上村松園の「待月」と言う絵では、紗の着物をきた女性が月を眺めていますが、青い紗の着物から下地の赤い模様が透けて見えていて、清涼感と艶を感じます。

「透け」の魅力と言うのでしょうか。

そういった魅力の効果として、日本舞踊などで紗を良く使うのが、着物の上に羽織る「内掛け」です。

花嫁さんの和装を思い出してください。角隠しと同じく白い羽織ものを着ますよね。あのガウンのような着物のことを「内掛け」と言います。

内掛けは裾を長くして、ドレスのように流して着るのですが、それを紗にし、裾などに金糸などを織り交ぜると、それだけで幽玄な雰囲気があります。

内掛けを捌き(さばき)ながら激しく踊ると、紗の透けに照明に映えて、様々な色に変化していきます。視覚が刺激されて圧巻でしょう。

そういう意味では、紗の着物は透けることが前提ですから、下にどんな着物を合わせるか、襦袢や襟をどう見せるかで、踊り手の雰囲気もがらりと変わります。それも醍醐味ですね。

紗で隠す素顔、黒子の頭巾

歌舞伎や能などで活躍する「黒子(くろこ)」は、本来「見えていない」と言う定義があります。

そのため、全身を黒装束で包み、顔も見えないようにします。

しかし、小道具や衣装替えなどをサポートするため、黒子自体には対象の役者や小道具が見えていないと意味がありません。

そのため黒子の頭巾の前面には「黒紗」が使用されています。

これは、文字通り「黒い紗」で、向き合っている側からは黒にしか見えませんが、観ている側からは、全て透けて見えているというもの。

黒に染めてあるので完全に色が見えているわけではありませんが、舞台が明るければ問題はありません。

洋生地のオーガンジーなどと同じで、下地に目を近くすれば下の物や色が透けて見えるのですが、ちょっと浮かすと透けなくなります。その効果を利用しているのです。

「紗」は舞台だからこそ映える。「紗幕」の効果

黒子の頭巾と同じく、舞台上では「紗」は大活躍します。その代表的なものが「紗幕」。

使用されるのは「英国紗」と言われるもので、イタリア製のものなどが多いですが、基本は黒い色に染めています。手に取ると網のように伸縮するので重さがあります。

どんな効果があるかというと、紗幕は舞台前から照明を当てるとただの黒い幕なのですが、後ろから照明を当てると、その中にあるものが浮かび上がってくるのです。

例えば、主人公が夢を見たり、あるいは空想の中のシーンなどを表す場合、主人公は紗幕前に立ち、夢や空想のシーンは紗幕中に用意します。そして、タイミングに合わせて紗幕中を明るくすれば、二つの空間が出来上がるのです。

紗幕には黒の他に白やグレーもあり、それぞれに照明の効果が変わってきます。

透けの元である網の目の大きさによっても、透けて見える感じが変わってきますので、舞台美術には欠かせないものです。

また、通常の幕ですと当然声を出しても幕に遮断されますが、紗幕はその心配はありません。なのでオペラの舞台にも良く使用されています。

難を言えば、紗幕中にいる方からは網の目が目に入るので、前が良く見えないということでしょうか。

いずれにしても、視覚効果としては非常に優れた幕なのです。

うっすらと見える下地の色を和らげる癒しの「紗」

beautiful young bride covering face with veil while posing
Photo by Maria Gloss on Pexels.com

「紗」に限らず、オーガンジーやガーゼ、タフタなどの洋生地なども、透けることに魅力があります。手触りも柔らかいし、気持ち良いですよね。

「透ける」と言うのは「透明」とは違って、下地にあるものがうっすらと見えることに魅力があるのではないでしょうか。

どんな強烈な色も、不思議なことに一枚紗が掛かるだけで、少し穏やかに和らぐように感じます。

舞台にかかる紗幕越しに見える景色も、私たちの目にはっきりと飛び込んでくるのではなく、少し距離を置いてくれるからこそ、懐かしく、または幻想的に感じるのでしょう。

「紗がかかったようにぼんやりと」と言う言葉がありますが、視覚が捉えるものが全てではないということも、「紗」は教えてくれるような気がします。

rihokomuto
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。