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禅寺の視覚マジック なぜ龍の絵に見つめられる?禅寺おすすめ4選も!

建長寺 画像提供Instagram @lotus.f403様より

京都や鎌倉の禅寺の天井や襖に描かれた見事な龍の絵。

一流の絵師たちは、観る者を惹きつけるために極上のワザを競い続けてきました。

展覧会ではなく、あえて禅寺という非日常の空間で龍の絵と向き合う。喧騒から隔絶された時空に身を置くと、翌朝はきっと爽快に目覚めることができるでしょう。

視線がもたらす「錯覚」に世界中の画家が気付いていた

美しく流れるようにボディをくねらせて描かれた龍の絵。

アートへの関心にかかわらず、その迫力に圧倒された方は少なくないでしょう。

龍は、仏法の守護神として法の雨(仏の教え)を降らせるとともに、水を司る神として建物を火災から護る象徴です。

特に禅寺(臨済宗)で多く描かれました。

その中でも、360度どの角度から見ても「龍に見つめられている」と感じさせる天井画は、「八方睨みの龍」と呼ばれています。

絵なのでもちろん視線は動きません。

錯覚を利用することで「鑑賞者を虜にできる」と気付いた一流の画家たちの才能と努力が、傑作となって今に伝えられているのです。

驚きのテクニック モナリザに自分が見つめられている?

person holding lantern
Photo by Gantas Vaičiulėnas on Pexels.com

パリのルーブル美術館を訪れ、かの有名な「モナリザ」を鑑賞された方は少なくないでしょう。

「どの方向から見てもモナリザと視線が合う」と感じたり、聞いたりしたことはありませんか?

絵として表現された視線があたかも動いているように見える目の錯覚、すなわち錯視を、心理学用語で「モナリザ効果」と呼びます。

AさんとBさんが正面で向き合っていて、視線が合っている姿を想像してみてください。

Bさんの視線の方向が変わらない状態で、Aさんが横に動いてBさんを見る角度を変えると、AさんはBさんが自分を見ていないと感じます。

人間の目や額は3D(立体)であり、見る角度によって見え方が変わるためです。

一方2D(平面)で表現された絵画は、高さや奥行きがないため目や額の側面は見られません。

これがモナリザ効果の秘密です。

2Dでは、描かれた視線の方向だけでなく絵の見え方そのものも変わりません。

人間や動物の視線が正面に描かれている場合、その視線を見る鑑賞者は、見る角度を変えても「常に見つめられている」と感じてしまうのです。

すなわちモナリザ効果は、2Dの「写真」では現れますが、3Dの「彫刻」では現れません。

目はその人の心の状態を表します。

描かれた人物や動物の一瞬の心の状態を絶妙のテクニックで瞳に表現し、鑑賞者がその視線から逃れられないようにする。

モナリザの謎の微笑が、おそらく世界で最も多くの人を虜にしている理由がここにあるでしょう。

龍の絵の視覚マジックの秘密=円形+天井

「八方睨みの龍」と呼ばれる作品の多くは、天井に「円形」に描かれています。

最も観る者を引き付ける「龍の目」はその円形のほぼ中心、さらに目も円形で、黒目は白目の中心。

天井に円形で描かれた絵は上下左右の方向がわかりません。

龍の目はあたかも、天空の中心にあって動かない北極星のようです。

この徹底的に円にこだわった構図は、モナリザ効果をさらに高めているように思えてなりません。

壁に掛けられた絵は水平方向にしか鑑賞する角度を変えられませんが、天井画なら360度角度を変えられます。

まさに「龍の目の視線から逃れたい」と思っても逃れられないように描かれているのです。

禅寺には極上を求めるエグゼクティブが今も集う

red and black temple surrounded by trees photo
Photo by Belle Co on Pexels.com

禅寺、中でも臨済宗の寺は、鎌倉幕府や室町幕府の庇護を受け、中世の日本の文化や芸術を常にリードしていました。

襖で囲まれた畳の間、床の間のある茶室、庭園といった和を象徴する上質な空間が、上流階級の客人を迎えるために育まれてきたのです。

茶の湯や座禅といった、交際や重大な判断に必要な素養を身に付ける活動も体験できます。

禅寺がエグゼクティブの心をつかむ理由は今も昔も変わりません。

なぜ禅寺にエグゼクティブが集うようになったのか?

鎌倉時代に初めて政権を担うようになった武家は、判断を誤って戦に負たり上司の期待に応えられかったりすると、すぐに命が危なくなる厳しい生存環境に身を置いていました。

禅宗は、座禅を通じて己と向き合うことで、悟りを開く(惑わされない強い心を持つ)ことを目的とします。他の多くの仏教宗派の様に「祈れば幸せになれる、極楽に行ける」ではなく、自己実現が求められるのです。

判断ミスが命の危険に直結する武家は、何よりも正しい判断ができる強い心を求めたため、禅宗の方向性と波長が合ったのです。

加えて最先端の中国文化に明るく、情報収集や交際の場としてもうってつけでした。

茶の湯が今でも日本の上流階級の素養として重視されるのは、こうした伝統が今に受け継がれているためです。

エグゼクティブにとって、情報収集や心身の鍛錬、教養の習得が重要であることは、今も昔も変わりません。

悟りを開く訓練(座禅)を極めた住職との対話も、日常では得られない刺激を受けることができます。

茶会や座禅会の機会に足しげく通い、住職との人間関係を構築しようとするエグゼクティブは今も少なくないのです。

今や世界のエリートも「禅」に注目!

グローバルのエリート層で「合理的・論理的思考だけでは問題解決はできない」と考える人が増えています。 国籍、宗教、LGBT、食習慣(ベジタリアン、ハラール)。

世界との距離が縮まり、交流が活発になればなるほど、多様性は増していきます。

禅は「あるがままを受け入れる」というきわめて曖昧な考え方でもあります。

そのため課題に対し、善悪が明確な合理的・論理的な答えを求めません。

グローバルのエリート層は、多様性と向き合うためにこの曖昧な考え方にヒントを見出そうとしています。

あなたの身近にグローバルのエリート層がいるなら、「禅」について質問されるかもしれません。

彼らは、多くの日本人がこの質問に答えられない=自国の文化を知らないことを知っています。

「禅」のことを最低限説明できれば、その友人があなたを見る目は一層輝くでしょう。

京都・鎌倉で味わう極上の禅寺空間と龍の絵 4選

禅寺の時空を体験するには、まずは「龍の絵」を見てください。

龍の視線から逃れられない自分に気付くと、とても心が軽くなります。

※新型コロナウイルスの影響により拝観時間変更・停止されている場合があります。訪問前に必ず公式サイト等で状況をご確認ください。

※施設側の都合で写真撮影や使用条件が制限される場合があります。写真撮影は必ず現地や公式サイトで条件をご確認の上行ってください。

【京都・祇園】「建仁寺」映える写真がたっぷり撮れる

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けんにんじ、京都の繁華街の中心にある阪急・京都河原町駅から歩いて10分、JR京都駅からでもタクシーで10分と、とても便利なところにあります。

寺の周辺は祇園の花街ですが、境内に入ると不思議なほどに静寂です。

このギャップが建仁寺の隠れ家としての魅力をより増しています。

住職が仏法を講義するホールの役割を持つ法堂(はっとう)の天井に描かれた龍は二匹いて、「阿吽の呼吸」を表現しているところに見応えがあります。

2002年の作品と新しいため、発色が明確でとても綺麗に見えます。

しかも畳108畳と巨大なため天井画の龍の絵としての迫力はピカ一です。

作者は小泉淳作。

同世代で文化勲章を受章した平山郁夫ほどの知名度は正直ありませんが、大寺院の絵の制作を依頼される自体が、当代一流の画家ステイタスであることは古今東西変わりません。

建仁寺には、他にも愉しみどころが多々あります。

京都の寺では珍しく、室内の美術品でも写真撮影NGではありません。

襖絵の雲竜図の最高傑作と評される海北友松の作品に加え、日本絵画で最も有名な俵屋宗達「風神雷神図」が高精細レプリカで常時展示されています。

高精細レプリカといって見下さないでください。

筆者は「風神雷神図」の本物とレプリカを別の機会に見たことがありますが、レプリカの方が色遣いを科学的に忠実に再現しているため、より綺麗に見えます。

写真が映えるのは間違いなく、レプリカの方です。

※建仁寺法堂は常時公開。

https://www.kenninji.jp/

【京都・花園】「妙心寺」狩野探幽の龍の絵を見たら座禅がおすすめ

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みょうしんじの法堂にある龍の絵の天井画は、京都の禅寺の中でも最古作品の一つです。

かの江戸初期絵師のスーパースター・狩野探幽が描きました。

400年前の八方睨みの龍の視線の鋭さは、今でもまったく色あせていません。

妙心寺境内は、京都の禅寺の中でも巨大です。

座禅会や茶会を催す塔頭(たっちゅう、子院)が多数あり、企業研修の会場としてもよく利用されます。

※妙心寺法堂は常時公開。

https://www.myoshinji.or.jp/

【京都・嵐山】「天龍寺」日本最高の庭の借景は最高の目の保養

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てんりゅうじの法堂の天井画は、加山又造1997年の傑作「八方睨みの龍」です。

作品が新しいことから発色がよく、最も「龍の視線から逃れられない」と感じさせます。

隣接する方丈ではじっくりと座って、禅宗庭園の傑作「曹源池(そうげんち)」と向き合ってください。

借景に配された嵐山の豊かな山並みが、直近の池の水面や四季の木々の色合いを引き立たせています。

室町時代から延々と続く、日本最高峰の「目の保養」スポットです。

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※天龍寺法堂は土日祝と春夏秋のみ公開、他は常時公開。

http://www.tenryuji.com/index.html

【神奈川・北鎌倉】「建長寺」巨大伽藍が鎌倉時代の面影を今に伝える

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けんちょうじは、鎌倉で最初に創建された臨済宗寺院です。

入口の三門からまっすぐに山に向かって続く境内は巨大で、青い空の下の開放感を存分に楽しめます。

法堂の天井画の龍の絵は、建仁寺と同じく小泉淳作。

「八方睨みの龍」とは名付けられていませんが、円形の中心に龍の目が描かれており、「龍に見つめられる」効果は充分に体験できます。

※建長寺法堂は常時公開。

まとめ

龍の絵の天井画が描かれる法堂は、いつ訪れても凛とした空気が張り詰めています。

中世にタイムスリップしたような空間で、じっと龍の目と向き合ってみてください。

あたかも悟りを開いたかが如く、瞳は落ち着いていてとてもピュアです。

そうしていると龍のささやきが聞こえてきます。

「汝を見通したり」。

rihokomuto
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